『君たちはどう生きるか』 感想

いや、映像的には面白かったですよ。

火事とかアオサギの飛ぶ描写とかお父さんのコミカルな動きとかダットサンとか戦車とか自転車とか。父と後妻に馴染めない真人の細かい芝居もすごく良かった。

そういうのもあって前半の現世パートとキリコさんまではかなり楽しんでみたんですよ。母を失って環境が急激に変化し鬱々としている少年がどう変わっていくのか興味深く見ていた。キリコさん魅力的だったね。

けどその変わる過程に納得感が全然なかった。特に夏子さんを「お母さん」と呼んだところ。なんで急にそう呼ぶ気になったのか全然分からない。キリコさんとヒミには「父の好きな人」と言ってるわけで。

キリコさんと輪廻転生のプロセスを体感してヒミと出会って火のトラウマを払拭して、母への未練を一旦断ち切って夏子さんを個人として承認する、みたいな話であればギリギリ理屈としては理解出来るけど、そっから母として家族として承認するのはもう一段階いるんじゃないの? せめて現世に帰還してからのほうが良くない?

君たちはどう生きるか」を読んで変わったんだって他人の感想を読んだけど、弓作り始めたのは本読む前だしなあ。

ヒミは……母であり少女っていうおいしい存在なんだけど、両者がまだらに混じりすぎていてどうも生理的嫌悪感が強かった。息子と分かった上であの距離感で振る舞ってるのマジ? 庇護者然とするか、平行世界上の少女とするか、どっちかの描写に寄せて味付けとして別の側面も見せるぐらいのバランスがよかった気がする。

映像的にも後半になるにつれて見せ場がなくなり、どうにも消化不良な印象。せめて最後、崩れゆく世界を魅力的に描いてくれたりしてくれればと思ったんだけど、そういうサービス精神はもう宮崎駿には無いのか。