『ちーちゃんはちょっと足りない』 ありきたりで、凡庸な不幸

 

前著「空が灰色だから」をとても楽しんで読みとても気分が暗くなったため、書店の平台で見た時買おうか買うまいか15分ほど迷って買った。一気に読み終わったので、多分良い本なのだと思う。

タイトルロールのちーちゃんはタイトル通り「足りない」女の子だ。多分ギリギリ障害と付かないレベルだろう。善悪の判断も怪しいレベルで家も貧乏故か母親も放任気味というディスアドバンテージを背負っているのだが、この作品の設定は「一週間フレンズ。」の藤宮さんの前向性健忘よりもある意味ご都合主義で、障害はすっ飛ばされてちーちゃんの問題はいともたやすく解決されてしまう優しい世界だ。周囲の人間、正義漢・優等生・ヤンキーがみんな寛容で善人で正しい人間だから。

だけどちーちゃんの一番近くにいる、狭量で凡人で正しくないナツの問題は解決されない。己の愚かさにより追い詰められていく。

作者が書きたいもののためにすべての設定は配置されていて遊びがない、という意味でとてもあざといお話なのだが、それが気にならないぐらいハートを殴りつけられる。だって読み手の俺が感情移入するのはナツだから。仕組まれたような理不尽な現実に打ちのめされる側だから。

特殊なちーちゃんの面倒な問題はいともたやすく解決された、されかかったのに、普通のナツのありきたりな絶望は解決されない。ラストで真っ黒だったナツが灰色の笑顔を浮べ、ちーちゃんの顔も灰色に染まるシーンを、どう解釈すればいいだろうか。本当にちーちゃんを必要としたのはやっぱりナツだけだったじゃないか。いや、ちーちゃんがたまたま一人で遊ぶことを望んだだけだったんじゃないか。などと益体もない考えだけが巡る。