「ほっこり」は誤用されていません

世界から誤用の"ほっこり"を誤用で撲滅する - 斗比主閲子の姑日記

日国を見ると、暖かい・ふくよか・明るい・気持ちが晴れやかなどの意で江戸初期の用例がある。そこから満足→退屈・うんざりのように意味が広がったのではないか/ということで、事実誤認の言葉狩りです。

日本国語大辞典第二版から抜粋(一部省略)

【一】〔副〕

(1)いかにも暖かそうなさまを表わす語。*かた言〔1650〕五「ほっこりはあたたまるかた歟。是もほは火成べし」

(2)ふくよかなさま、また、ふかしいもなどのふっくらとして柔らかいさまを表わす語。*狂歌狂歌糸の錦〔1734〕「寄餠恋 ほっこりとくどきもやらでつき廻りあへさがされし手もちぶさたや」

(3)色つやがよく明るいさまを表わす語。*俳諧・新増犬筑波集〔1643〕油糟・雑「雲の上にも湯やわかすらん ほっこりと洗ふたやうな月のかほ」

(4)気持が晴れたり、仕事や懸案のことがかたづいたりして、すっきりとしたさまを表わす語。*浮世草子・傾城歌三味線〔1732〕五・一「床へはござれど痞(つかへ)がいたむとて、今にほっこりとした事もないげな」

(5)うんざりしたり、困り果てたりするさまを表わす語。*浮世草子・諸芸独自慢〔1783〕二「今かけ屋敷を八十三軒持て居りますが、イヤモ世話なもので、ほっこり致しました

【二】〔名〕

ふかした薩摩芋をいう。

方言

【一】〔副〕

(1)暖かいさまを表わす語。《ほっこり》新潟県佐渡352和歌山市「ほっこりぬくもる」691

(2)ほっとするさま、安堵(あんど)するさまを表わす語。《ほっこり》京都府629《ほっこる》富山県砺波398

(3)十分に満足なさまを表わす語。《ほっこり》愛知県知多郡「ほっこりした柿はならなんだ」570三重県松阪584

(4)全く。本当に。大いに。《ほっこり》石川県能美郡419福井県427坂井郡「ほっこり厭になってしまった」433滋賀県607高知県「ほっこり字が上手じゃげな」862《ほっこし》福井県427滋賀県彦根609

(5)非常に疲れたさまを表わす語。《ほっこり》福井県427「半日も洗濯してほっこりした」448岐阜県本巣郡510滋賀県犬上郡615神崎郡616京都市621大阪市638

(6)退屈なさまを表わす語。《ほっこり》三重県阿山郡585滋賀県彦根609京都府629《ほっこい》三重県伊賀585

(7)うんざりしたさま、閉口したさまを表わす語。《ほっこり》福井県足羽郡440滋賀県甲賀郡611

(8)ほとんど。《ほっこり》滋賀県神崎郡616

(9)不十分なさまを表わす語。《ほっこり》福井県大野郡427

(10)少々。少しばかり。《ほっこり》群馬県多野郡232《ほっごり》富山県下新川郡391《ほっこち・ほおっこち》埼玉県秩父郡「あちゃ、ほっこちくれてみろ」251《ほっこしょ》富山県下新川郡「ほっこしょも知らん」392

 資料の年代からしても、もともとほっこりは「温かい」という意味で使われていたと見るのが妥当だろう。そこから「満足」→「食傷・うんざり」→「疲れた」という風に意味が拡大・変化していったと考えられないだろうか。方言の(5)の用法が近畿地方をを中心にしていることから、方言周圏論的にも合致するように思える。

また、(1)の用例の出典である「かた言」は京都の商人・俳人である安原貞室が著したものだ。17世紀の京都においてほっこりは「温かい」という意味で通ったと見ていいだろう。

言葉の好き嫌いはあって当然だと思うが、誤った認識から他人の表現を排除しようとするのはいかがなものかと思う。