誰が妊婦を言祝ぐのか 橋迫瑞穂「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」

 

妊娠・出産は女性の身体性が超越性とのつながりを、自分自身だけでなく周囲にも提示する役割を担うものと言えよう。

橋迫瑞穂. 妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ (集英社新書) (Kindle の位置No.2055-2056). 株式会社 集英社. Kindle 版. 

理論化された世界宗教は、しばしば妊婦に冷淡である。ケガレや欲の象徴として、妊婦は祈りの場から遠ざけられる。では何が妊婦を社会の中で価値あるものとして称揚してきたかと言えば、もっと土着的な宗教や、共同体主義的な価値観だろう。

土着的宗教・共同体主義的価値観が力を失った後代替として現れたのが、本書で紹介されるようなスピリチュアリティなのだと思う。

そして女性の権利を拡大してきたウーマンリブ的なフェミニズムも、妊婦をうまく位置づけることができなかった。差別を撤廃すれば男女が本質的に対等であると考えるフェミニズムにとって、女性にしかできない仕事である妊娠・出産はイレギュラーな出来事である。

女性の自己決定権のため、育休制度などを勝ち取ってきたフェミニズムの活動は素晴らしいものだと私は思っている。しかしそのなかではどうしても、妊娠出産は本来のキャリアの合間の「腰掛け仕事」になってしまう。そういう意味で森岡正博氏が帯に書いているように、妊娠出産はフェミニズムの落とし物なのだ。

対照的にスピリチュアリティは身体性に基づく、本質的な男女の違いを強調する。フェミニズムジェンダーを前提にした女権拡張運動なのだとしたら、スピリチュアリティはセックスを前提にした女権拡張運動なのだ。

TERFとTRAの対立など他の場面でもジェンダーとセックスの対立を感じることは多く、そういう意味でも興味深く読んだ。